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講座レポート2022.01.19

【講座レポート】大館の特産品を究める とんぶり論

大館学び大学
ライター:大館学び大学

大人が考える、とんぶりの今とこれから

全国で唯一とんぶりを生産している大館市。
アカザ科ホウキギ属の一年草であるホウキギの成熟果実を加工したとんぶりは、2017年に大館市の特産品『大館とんぶり』としてGI(地理的表示保護制度)にも登録されました。

プチプチとした食感と緑色の小さな粒が目に鮮やかなとんぶりは、一度食べたらやみつきになること間違いなしの一品。
しかしその一方で、厳しい後継者不足に悩んでいるのも事実です。

今回は2021年12月11日(土)に開催された『【大館の特産品を究める】とんぶり論』の様子をレポートしていきますよ!

とんぶりの魅力はもちろんのこと、これからの未来について真剣に考えるきっかけがここにありました。

本当に好きな人しか食べないとんぶり

講師を務めてくださったのは、とんぶり農家の本間 均(ほんま ひとし)さん。
(※画像左)

「とんぶりは、本当に好きな人しか食べない」

レタスやトマトなど、私たちにとって身近な野菜と比べると食卓に登場する機会が少ないとんぶりですが、裏を返せば「本当に好きな人は毎日でも食べてくれる」と仰っていたのが印象的でした。

講座は参加者全員にお配りした『大館とんぶりプチブック』を教科書代わりに、冊子には記載されていないとんぶり秘話を交えて進められました。

一粒一粒、丁寧に、丁寧に

強風に煽られると落下してしまうほど軽くて繊細なとんぶり栽培には、風を遮ってくれる森の存在や加工などに必要な大量の清流、何より土壌の水はけの良さが欠かせません。

それらの自然条件が全て揃っている比内地区はとんぶり栽培に最適な環境で、大館市が唯一の産地として残ったことと大きく関係しているそうです。

古くから漢方薬として用いられてきた『地膚子(じふし)』と呼ばれるホウキギの実をとんぶりにするには3日を要し、中でも洗いを繰り返す作業工程を説明する場面では「こんなにも手間がかけられていたのか…」と、みなさん真剣な様子で話に聞き入っていました。

加工の工程は大きく分けて6つあり、そのほとんどが現在も手作業で行われています。
どの工程にも大量の清流が必要で、昔は川で行っていたというから驚きです!

最終工程では、目視でピンセットを使いながら異物が混じっていないかどうかを確認し、パックされたものはX線に通して合格したものだけが市場に出回ります。

「直接口に入るものだからこそ、厳密に」
一粒一粒に込められたその想いがあのプチプチ食感に繋がっていると思うだけで、作り手の愛情を感じずにはいられません。

大館とんぶりの、今

それまでは自家消費が大半を占めていたとんぶりも、昭和50年以降から商品として販売されるようになり、ピーク時の昭和63年には418トンものとんぶりを生産していました。
しかし平成元年以降、生産量や生産戸数は減少の一途を辿り、現在の生産量は半減以下の20〜30トンです。
また令和4年度以降の生産者数は、生産組合の中で数えると片手に収まるまで減ってしまうとのことでした。

売れ行きはあるものの、作り手の減少から生産量が少なくなっている現実。
生産量と生産額は変わらず日本一の大館とんぶりですが、これからを担う後継者が見つからないという大きな課題を抱えていることが伝わってきました。

とんぶり応援大使の登場!

そんな厳しい状況に置かれているとんぶりですが、心強い味方がいることも忘れてはいけません。

講座の後半では、Zoomを使ってゲスト講師のふかわりょう(ROCKETMAN)さんが登場してくださいました!
(3人ともとんぶり帽子を被っているという偶然に、ふかわさんも会場のみなさんも、思わず笑みがこぼれます)

2019年3月19日に、大館市のとんぶり組合より『とんぶり応援大使』に任命されたふかわさん。
きっかけは、ふかわさんが出演されていたテレビ番組の料理コーナーでとんぶりと出会い、その魅力や大変な状況を知って胸を打たれ、楽曲『とんぶりの唄』とキャラクター『とんぶり兄弟』を発案しリリースしたことでした。

「力になりたい一心で行動したものの、迷惑だったのでは…」と、大館の人の反応に不安を感じていたというふかわさんでしたが、初めて大館を訪れた際の温かい出迎えや交流を通して、とんぶり愛が大館愛に、さらには秋田愛に繋がり、愛情が雪だるま式に大きくなっていますと想いを伝えてくださいました。

とんぶり愛、満ち満ちています

生ハムにとんぶりを包んだ「生ハムとんぶり」がお気に入りのふかわさんは、とんぶりをヨーグルトに振りかけてみたり、カクテルの中にとんぶりを入れた「とんぶりオン・ザ・ビーチ」を試作するなど、日々オリジナルレシピを考案しているそうです。
(ヨーグルトはギリシャ系の固めがおすすめみたいです!カクテルも気になりますね…)

そんなとんぶり愛に満ちているふかわさんは、曲げわっぱやきりたんぽに比べてまだまだ認知されていないとんぶりには伸びしろがあると考えられていました。

「知っているのに選ばないではなく、知らないからこそ未来がある」
とんぶりの未来に光を感じずにはいられない素敵な言葉に、みなさんひしひしと熱量を感じている様子でした。

そのほか、現在制作中のとんぶりデザインパッケージの紹介や、本間さん企画の体験型イベントの提案など、Zoomを通してお互いのとんぶり愛を語り合う場面もありましたよ。

夕方のメロディーを…

「とんぶり畑がなくならないように、力になりたい」

最後にそう語ってくださったふかわさんは、学校の下校時間に流れるメロディーを『とんぶりの唄』にしてみても面白そうと話します。
学校に限らず、駅や信号機のメロディーにも『とんぶりの唄』が流れていたら、観光客はもちろん、地元の人にとっても耳から大館とんぶりを知るきっかけにもなりそうですよね。

音に対してピュアな感覚をお持ちのふかわさんの素敵な提案に、会場も盛り上がりを見せました。
そんな未来の実現にも期待したいところです。
ふかわさん、改めてご出演いただきありがとうございました!

なんてったって、ホウキギ

ふかわさんとさよならをしたあとは、ホウキギを使用したホウキ作りの構想話に移ります。
とんぶりの元でもあるホウキギは、その名にも入っているように箒にもなるのですよ!

ホウキギを使用した箒は細かい部分の掃除に適しているそうで、ゆくゆくは販売も検討しているのだそう。
画像にあるのは試作段階の箒ですが、束をまとめる紐のデザインを少し変えるだけでも立派な箒になりそうですよね!

新たな側面からとんぶりを知ることができる箒の完成が、今から待ち遠しいです。

とんぶりレシピをご紹介

優れた栄養素やさまざまな効能をもっていることから『畑のキャビア』とも呼ばれているとんぶり。
原料となる『地膚子(じふし)』には、ビタミン、ミネラルがバランス良く含まれているので、便秘改善につながる食物繊維や、脂質の代謝を促進するサポニンなどを効率よく摂取することができます。

さらに加工時には雑菌予防のためにクエン酸処理をしているため、そのまま食べられるお手軽さも嬉しいところです。

「あえる」「まぜる」「ちらす」など、食べ方は自由自在のとんぶり。
本間さんの一押しは、すりおろした生姜をとんぶりにのせ、醤油をかける「生姜とんぶり」みたいですよ!

JAあきた北が運営しているこちらのサイト上でも大館とんぶりのかんたんレシピを紹介しているので、気になるものがあったらぜひお試しください。

大館とんぶりの、未来

「とんぶりは、本当に好きな人しか食べない」
「知っているのに選ばないではなく、知らないからこそ未来がある」

そんな、本間さんとふかわさんの言葉が印象的だった今回の講座。
全国的にはまだまだ認知度の低い大館とんぶりも、知って食べてもらうことで、その魅力に気づいてくれる人がたくさんいるはずです。

後継者不足という厳しい状況の中でも、とんぶりの火を絶やさぬように努力を続ける農家さんのそばには、応援してくれる人がたくさんいます。

できることから、少しずつ。
そんな風に考えるきっかけが、今講座には詰まっていました。
最後に参加者のみなさんにお渡ししたお土産の生とんぶりも、おいしく調理していただけるとうれしいです。

ではでは、また次の記事でお会いしましょう!