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講座レポート2024.10.07

【若手職人と研究者が解説】現代に継ぐ工芸「津軽塗」の世界

ふくだみのり
ライター:ふくだみのり

多様な側面から学ぶ「津軽塗」の今

津軽塗

300年以上の歴史を持ち、平成29(2017)年に重要無形文化財として技術指定された「津軽塗」。青森県を代表する工芸品として有名ですが、津軽塗の由来や歴史については意外と知らない人が多いのではないでしょうか。

今回は、2023年9月10日(日)に開催された『【若手職人と研究者が解説】現代に継ぐ工芸「津軽塗」の世界』の様子をレポートしていきます!

さまざまな模様がついた見本を手に取りながら、津軽塗の歴史や魅力について深く学びました。

バリエーションは無限!津軽塗の模様ができるまで

講師の髙橋憲人さんと木村崇宏さん

講師は、弘前大学の助教と津軽漆連の代表を務める髙橋憲人(たかはしけんと)さんと、現役の津軽塗塗師で津軽漆連会員の木村崇宏(きむらたかひろ)さん。お二人とも津軽塗を愛する職人や販売業者、研究者らでつくる津軽漆連のメンバーとして、津軽塗の継承をはじめとする多種多様な活動を行っています。

津軽塗は「唐塗(からぬり)」「七々子塗」「錦塗」「紋紗塗(もんしゃぬり)」の4つの代表的な技法によって作られますが、それらの技法から生み出される模様のバリエーションは無限にあるそうです。その秘密は「研ぎ出し変わり塗」という技法にあると話す髙橋さん。研ぎ出すことで、変化に富んだ模様が生まれると言います。

研ぎ出し変わり塗について話す講師

たくさんの模様がある津軽塗ですが、共通点ははじめに漆の突起(凸)をつくることであると説明する髙橋さん。凸が固まったら別の色の漆を上から塗り重ねますが、重ねた漆が固まると凸は下に隠れてしまうので、その部分を砥石やヤスリでゴシゴシと研ぎます。そうすることで徐々に凸が模様として現れてくるそうです。「研ぎ出し変わり塗」には「仕掛(しかけ)技法」と「吸い上げ技法」の2種類の技法があり、一般的には仕掛技法が使われているそうです。ここで仕掛技法と吸い上げ技法の津軽塗の見本を手に取り、実際に触れて違いを確かめました。

「研ぎ出し変わり塗」の技法は津軽に限らず他の産地でも使われていたようで、その地域には会津(福島県)や新潟、酒田(山形県)のほか、木曽(長野県)や小浜(福井県)などが挙げられます。ただし、今なお主流として使われているのは津軽と小浜だけであると髙橋さんは話します。ちなみに津軽の「研ぎ出し変わり塗」は、地模様の上に筆書きしたものが多いのが特徴みたいです。

凸のつけ方について話す講師

また、凸のつける際は「叩く」「ひっかく」「まく」「転がす」「ひねる」など、さまざまな道具や素材を使用した技法で模様を生み出すそうです。凸のつけ方に豊富な種類があることに驚きながらも、皆さん興味津々な様子で聞き入っていましたよ。

漆器の色味を出す素材とは

漆器の色について学ぶ受講者

赤色と黒色で構成されるイメージが強い津軽塗ですが、色味を出すために使用される素材もちゃんと決まっているそうです。赤色には「硫化水銀」、黒色には炭などの「カーボン」が使用されていると話す髙橋さん。ただし、赤色の硫化水銀は当時非常に高価なものであったため、比較的手に入りやすい「水酸化鉄」も使用されていたのだとか。縄文人はこの「水酸化鉄」を利用して赤い「ベンガラ」を作ったといわれています。

また、漆芸の装飾は漆の表面に金粉などをまく「蒔絵(まきえ)」が王道とされていますが、江戸時代に参勤交代などの制度で莫大な費用がかかって高価な金が使えなくなると、代替品として“黄色”を用いるようになります。さらにその黄色に“青色(インディゴ)”を混ぜて緑色にするといった工夫もなされました。そのようにして黄漆(きうるし)や青漆(せいしつ)が誕生したそうです。

世界史で見る「津軽塗」

津軽塗の画像を見る受講者

今でこそ世界中で広く認知されている津軽塗ですが、その名が一般的になったのは明治6(1873)年に開催されたウィーン万国博覧会への出品であると話す髙橋さん。ウィーン万国博覧会は日本が明治政府になってから初参加した万国博覧会で、青森県が「津軽塗」の名前で漆器を出展し、賞を受けています。加えて、新たに普及したメディアである新聞を読むことで国際情報がリアルタイムでわかるようになり、世界が日本に興味を持つようになります。これによって日本趣味ともいわれる「ジャポニスム」が流行しました。

当時の日本は黒船来航で開国を迫られ、近代化レースにのって欧米列強の仲間入りをするために必死になっていましたが、万国博覧会への出品をきっかけに販路拡大や西洋の最新技術の習得を実現します。ちなみに「工芸」は明治政府が欧米諸国に対抗するためにつくった概念で、対欧米輸出品と言っても過言ではないと髙橋さんは説明しました。

新たに生まれた「日本的」デザイン

日本的デザインについて説明する講師

欧米諸国と肩を並べようと一生懸命になっていた明治政府ですが、博覧会対策の本格化に伴って、明治期に西洋人のイメージに合わせた「日本的」デザインが新たに誕生しました。日本的デザインの特徴としては、“派手な色彩の並列”や“極端に込み入った器形”、“人の目を驚かせるような題材”のほか、花や蝶などを多様したデザインが挙げられます。「工芸と聞くと“ローカル”や“土着的”といったイメージがありますが、津軽塗は政治的な流れの中で出来上がっていることを知ってほしい」と髙橋さんは話しました。

これからの津軽塗

講師の髙橋さんと木村さん

江戸時代からさまざまな技法が伝えられ、たくさんのパターンがある津軽塗。後継者不足をはじめとする厳しい課題はありますが、津軽塗塗師の木村さんは「津軽塗は可能性を秘めている」と話します。講師のお二人もメンバーとして活動する津軽漆連では、多様な人々を巻き込んで津軽塗の魅力を発信しているそうです。これまでのパターンを続けるだけでなく、新たな技法にもチャレンジしていると木村さんは話しました。

津軽塗の模様や使用されている素材、さらには歴史について深く学べた本講座。最後に設けられた質疑応答の時間では受講者からたくさんの質問が集まり、津軽塗に対する皆さんの関心の高さが伺えました。本講座を機に、津軽塗がより身近に感じられたのではないでしょうか。

ではでは、また講座レポートでお会いしましょう!