今回の講師は木都能代で街を元気にしていくことを目標にメンバーとのしろ家守舎を立ち上げ、マルヒコビルヂングを中心に活動を広げる湊 哲一さん。
シャッターを下ろした状態が目立ち寂しい通りになってしまった駅前から商店街。多くの人を巻き込みながら、子供から大人まで様々な人が行き交う賑わいを作り出す活動についてお話いただきました。
東北一のアーケード通りから東北一のシャッター通りへ
2010年大館のゼロダテアートプロジェクトへの参加をきっかけに秋田と首都圏を行き来するようになり、2017年にUターンで能代に戻ってきた湊さん。「人通りが少なくてシャッター街の代名詞みたいな通りになっていた」と紹介されたのはシャッターが下りた能代の商店街の写真でした。今回の会場MARUWWA三角がある大館大町商店街と同じような状況に、ふとガラス戸の外に目を向ける参加者もいました。
街のために動き出すきっかけとなったのは「動き出す商店街プロジェクト(2019)」への参加。プロジェクトの参加メンバーたちとエリアリノベーションについて勉強を進めていくうちに能代の地域課題に直面。課題を掘り起こしまとめていくうちに自分達で動かないと先に進めないのではないかという責任感が生まれてきたそうです。
能代の地域課題
①子供の姿が街中に少ない
②子育てしているママさんの居場所が少ない
③クリエイティブな仕事が表に出てこない
④木都らしい場所がない
この課題を自分達で解決することが出来れば何かが変わるんじゃないか。
そんなときに湊さんたちは閉店してしまった酒屋さんの丸彦商店と出会います。話を聞いたオーナーさんも街を元気にするために使ってもらえるならと快く貸してくれ、その後も近隣の方へ協力をお願いしてくれるなど今では一番の応援団だそうです。課題が明確になり、拠点が見つかり、周りをどんどん巻き込んでプロジェクトは動き出しました。
Co-motomachi
現在11事業者が入居するレンタルオフィス・コワーキングスペース。隣のスペースが見える開放的な木の仕切りが印象的な空間で、さまざまな仕事をしている人が集まり常にわいわい賑わっているそうです。ここで新しいことが生み出され、なんだなんだと人が集まってくる、能代の台風の目のような場所です。
Cafe & asobiba 4-6(カフェとあそびば よんのろく)
多目的に利用できる「遊び場スペース」を併設したカフェ。糀屋さんの甘酒や味噌など地元の食材を積極的に使用しているそうで、食を通して能代を知ることができる施設でもあります。曲線が印象的な白い大きなテーブルはワークショップで仕上げたもので、雪をイメージしているのだとか。ぽっかり穴が空いていたり、くぼみになっているところがあったり、自分だけの使い方を見つけられそうですね。このテーブルは上に上がっても大丈夫。遊具のようにテーブルを楽しむ子供や、テーブルの上にちゃぶ台を置いて作業をする大人の写真を見て場所を柔軟に使う力がここで養われているんだなと感じました。「4の6」は番地からきていて、4/6が記念日だそうですよ。
KILTA
自分の場所を自分で作ることを学ぶことができる、ものづくりの拠点・起点のKILTA(キルタ)。マルヒコビルヂングの地下からものづくりプログラムやシェア工房として支えています。
お話の中で「DIYで作るものはちょっと雑だけど思い出ができる」という言葉が印象的でした。ものづくりプログラムでの集合写真の真ん中で堂々とポーズをとる男の子。参加時は工具の使い方からスタートしたそうです。プログラムで教えてもらう、やってみることを通して他参加者と関係を築き、最後には「棟梁」と呼ばれていたとか。自分の力で作った「もの」、作った「こと」が思い出となりやがて能代に戻ってくる理由になるのだと湊さんは教えてくれました。
遊休不動産、公共空間の利活用
マルヒコビルヂングの活動に巻き込まれていくのは近隣の人たちだけではありません。役所でお仕事をしている人も能代で実証実験をしたいとやってきます。
実験の内容は歩道の利活用、第一弾として歩道に芝生を敷いてみる。
アスファルトとシャッターのくすんだ景色に鮮やかな緑が出現し、そこでご飯を食べゴロンと寝転がるスーツの大人たち……。公共空間はみんなにひらかれている場所であるが故に、みんなが自由に使えない場所です。そこを一歩踏み出して自分なりの使い方をしてみる、見ていてやってみたくなる、巻き込まれる。このサイクルの広がりが新しいのしろの街を作っていくのだなと感じました。湊さん曰く芝生に座って目線が下がると街の風景がガラッと変わるのだとか。なんて聞くと、自分もちょっとやってみたくなりませんか?
大通り歩行者天国
大学のない街能代の課題の一つとして思い入れがないと街に戻ってこないということが挙げられます。そこで開催したのが「大通り歩行者天国」。大人も子供も自分達の街で遊ばなきゃ!街をみんなで楽しもう!と始めた1年目。空き店舗をできるだけ開けて、秋田でなかなか無いハロウィンの仮装行列をやってみて……自分達でできる範囲から始まったイベントは2年目に中学2年生の授業の一環として組み込まれ、3年目には小学校の全校生徒まで参加するイベントに。そこに中学校の他の生徒も参加して、いろんな世代で街を盛り上げようとする大イベントとなりました。コロナ禍の時期に始まったこともあり最初は商店街に下りる県の補助金が財源でしたが、今では協賛企業が金銭面で協力することで自走できる形になったそうです。
少しずつ広がる街並み
マルヒコビルヂングの活動から、能代には少しずつ新しい拠点が出来始めています。
みんなの居場所comore(コモレ)、学生による学生のためのスペース旧鴻文堂。学生、イベント参加者、インターン生など多くの人が関わりあって作ってきた拠点で日々いろんな人が利用しています。
また能代には自分らしい仕事を作る第一歩となる「のしろいち」というイベントがあります。場所はかつて一番大きな朝市が開かれていた能代駅前。本部となる山内ビルではのしろいちの期間外にも小さな小商を応援するための講座がひらかれ、その実践の場としてのしろいちに出店するお店もあるそうです。イラスト屋やお菓子屋など、それぞれの自分らしいシゴトの屋台が並びます。
「モクトサイコウ」木都能代の再考・再興・最高。
「能代では普通の光景なんです」と紹介されたのは道路の脇に大きな木がゴロゴロ積み上げられている写真。そして大人の身長程ある大きな伐根材の写真。
能代の木材市場ではせりが行われ、全国から買い付けに来る人が多いのだとか。集まってくるのは木材目当ての人だけではありません。能代からも外に木材を買い付けに行っているため、全国のすごい木が能代に集まっているのだそうです。そんな木都能代や関わる人たちをより広く深く知ってもらうために、MOKU TALKや「モクトサイコウ」をテーマにしたトークセッション、木都散歩などのイベントも行われています。
のしろ会議、これからのこと。
所属や世代を越えて人が集まり毎回4、5人のゲストが登壇して7分だけ話すのしろ会議。能代のヒトや登壇者の視点から語られる能代を通して街をもっと好きになる・もっと楽しくなる場所です。のしろ会議がきっかけで街を好きな人が増え、どんどん新しいことが生まれていく。能代の街やここで暮らす自身についての点検作業でありこれからの作戦会議の場でもあるようです。
マルヒコビルヂングの次の作戦は、新しい発見と学びの場づくり。あと2つ拠点を築くことだそうです。目標はマルヒコビルヂングのホームページに掲げられた「駅前からの商店街に子供から大人まで、様々な人が行き交う賑わう街能代」。能代の街のこれからの活動から目が離せません。
今回は能代のまちづくりに感銘を受けると同時に、自分の街への希望や自分も何かやってみようという勇気をもらえる力強い講座でしたね。それではまた次回のレポートでお会いしましょう、最後まで読んでいただきありがとうございました!
マルヒコビルヂング
https://noshiroyamori.com