近世古典絵画作品を読み解く
10月に入り、食欲の秋や読書の秋、スポーツの秋や実りの秋といったように楽しみの多い季節がやってきました。もちろん、芸術の秋も欠かせませんよね。
今回は、2023年9月30日(土)に開催された『【風俗描写からみる西洋絵画】主題やモチーフの意味を読み解く』の様子をレポートしていきます!
ルネサンス期からバロック期にかけての近世古典絵画作品を観察しながら、日常を描くことへの関心や意味について、主題やモチーフを読み解きました!
世俗的なジャンルとしての風俗画
講師は、秋田大学教育文化学部 地域文化学科で准教授を務める佐々木千佳(ささきちか)さん。西洋美術史、イタリア・ルネサンス美術史(ヴェネツィア絵画史)を専門に、“イタリアの古典絵画”を研究されています。
講座のテーマである風俗画について佐々木さんは、庶民の普段の生活や文化、日常生活のさまざまな面を描いたもので、歴史画や物語画のような“最高位の高貴なジャンル”とは異なり、下位の“付属的なジャンル”として確立していたと話しました。
西洋絵画における2つの大きな主題
西洋絵画の主題は、宗教画(物語画、礼拝画)と世俗画の大きく2つに分かれると話す佐々木さん。宗教画では神話画(ギリシャ・ローマ神話の物語)、旧約・新約聖書の物語、福音書外典、キリスト教文化に関わる聖人たちの生涯といったように、キリスト教の“聖なる領域”に属するものを扱っていたそうです。対して世俗画は、風景や肖像、日常生活のさまざまな場面のほか、文学・歴史主題といったように非宗教的な“世俗の領域”に属するものを扱っていたと説明しました。
また、16世紀後半からイタリア絵画では風俗的な要素が顕著に現れ始めたと話す佐々木さん。食事の様子が分かるパオロ・ヴェロネーゼの「レヴィ家の饗宴(1573年)」を鑑賞し、風俗的な要素やモチーフをチェックしました。
そのほか、聖母や聖人は「聖書の物語」を、女神は「ギリシャ・ローマ神話の物語」を象徴しているといった話もありました。
西洋絵画へのアプローチ
西洋絵画への理解を深めるにあたって、重要になるのが「5W1H」だと佐々木さんは話します。5つのWである「When:いつ」「Where:どこで」「Who:誰が」「What:何を」「Why:なぜ」と、1つのH「How:どのように」をまとめて表現した言葉として有名ですが、これらの要素を絵画にも当てはめて考えることができるのだそう。
「いつ」「どこで」「誰が」の部分は美術家に、「何を」の部分は主題(図像やモチーフ)、「どのように」の部分は様式(表現上の特徴、どのように描いているのか)に当てはめることができると話す佐々木さん。そうすることで、絵画鑑賞がより楽しくなると話します。ちなみに「なぜ」の部分を考える図像解釈が最も難しいそうですよ。
聖母画の機能と家系の存続と繁栄
ここからは、さまざまな聖母画を鑑賞しながら、キリスト教美術の中にある風俗的描写について学びを深めていきました。
聖母画像は“聖母”と“母性”の表象とされ、賢母のイメージが確立されていたと話す佐々木さん。「書物と教育」「接触と人性(フマニタス)」「食卓の聖母」「授乳の聖母(ウィルゴ・ラクタンス)」を主題とした作品を通じて、絵の中に隠された風俗的描写に触れました。
聖母画は相応しい振る舞いを伝え、母性を育む“聖像としての機能”に加え、現実の女性が模範すべきものとする“現世の模範としての機能”をもっていたと話します。
また、11〜13世紀は複数世帯からなる大家族(コンソルテリーア)が一般化し、13世紀以降からルネサンスにかけては、大家族から主婦を主体とする核家族化が進んだそうです。
ルネサンスの女性は核家族化した家を守り、子を養育する母として生きることが重要視されたと説明しました。
ルネサンスからバロック期にかけて描かれた現実の表像
ルネサンスからバロック期(近世)には、現実の人物や情景が描かれるようになったと話す佐々木さん。レオナルド・ダ・ヴィンチ作の「チェチリア・ガッレラーニの肖像(白貂を抱く貴婦人の肖像)」やヨハネス・フェルメール作の「手紙を読む青衣の女」「牛乳を注ぐ女」といった数々の作品鑑賞を通じて、肖像画と物語画の中の「個」や子孫繁栄をめぐるイメージ、風俗画に込められた寓意・教訓を学びました。
風俗画は家系の存続と繁栄のイメージ(現世の模範としての機能)をもち、キリスト教信仰に根ざした家庭の倫理観を伝えるメッセージとして、近世西洋絵画における絵画の大きな役割を果たしたと話す佐々木さん。最後に「“静”と“俗”を汲み取ると、絵画鑑賞の手がかりが掴める」と話して講座は終了しました。
風俗画といっても、キリスト画と表裏一体の関係であることを学んだ本講座。秋は芸術イベントが目白押しなので、今回学んだ内容を踏まえて美術鑑賞に行くのもいいですね。
ではでは、また講座レポートでお会いしましょう!