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講座レポート2024.03.19

【農業マッチング講座】これからはじめる農業講座

七維
ライター:七維

お店で買う野菜はどのように育てられているのか、窓から見える田畑では誰がどんな物を作っているのか……私たちにとって最も身近な職業の一つである農業。近年農業従事者の高齢化や後継者不足について度々問題に挙げられていますが、大館市ではどのような対策や支援がなされているのか皆さんはご存じでしょうか?
そもそもビジネスとして農業はどのように始めたらいいのか始めるとしたらどんな野菜がいいのか……。
2024年3月10日(日)に開催された「【農業マッチング講座】これからはじめる農業講座」では、大館市産業部農政課で農業支援をしている石川 久人さんを講師としてお招きし、大館の風景として、食として身近な職業である農業の一番はじめの部分についてお話しいただきました。

大館の農業従事者のサポートを仕事とする石川さんも農家の生まれ。小さい頃から家の仕事を手伝う中で、農業は正直あまりやりたくない職業の一つだったそう。しかし今、農業に携わる身となり農業が置かれている現状や対策の重要性をひしひしと感じているとお話しされていました。

参加者の手元には今回のプレゼンテーションの資料、就農・経営準備支援の資料、農業研修制度などこれから農業を始めるための情報が詰まっていました。「資料をもとに大館市の支援の内容や私からの農業の始めかたのアドバイスをお話ししていきます。」という石川さんの言葉に、皆さんの真剣な眼差しがスライドに向けられます。

大館市農業の現状と課題

まずは5年に1度行われる農業センサスのデータです。団魂の世代から高齢化が進む一方、就農者が少ないことで大館市の農業人口は2015年から5年間で半減。全体で5歳分上がっていることもありますが、特に40歳未満の就農者も8割減少。自分で農業経営を始める人は少ない一方で1戸当たり耕作面積は増加し農地の集約化が進んでいます。これはすでに把握しきれていないほどある耕作放棄地の増加を抑えるための策でもあり、市・県・国でも優遇政策を行っているのだとか。
大館市で行われた世論調査「あなたが採点する行政の通信簿」による市民が必要とする農業課題から、持続可能な経営出口チャンネルの開拓担い手確保などの大胆な施策展開が必要だと石川さんは言います。高齢化や人手不足が深刻だと聞いたことはありましたが、いざ数字で見るとかなり深刻な状況だとわかります。
集約化し大規模になった農業を無理なく継続していくための方法の1つとしてスマート農業の導入が挙げられます。早朝に起きて田んぼを見に行く作業をスマートフォンの画面上で済ませられる自動水管理システムは年間の作業量の約78%の負担を軽減できるそう。他にもAIなどの先端技術が搭載されたドローンの農薬散布電波を用いた無人トラクターなど人口が減る中で労力を確保することができます。

出口チャンネル(新しい販売方法)の開拓としては大館産野菜のブランド化や作物加工品の販売自分で価格を決められるインターネット販売マーケティング重視の需要に応じた生産などが挙げられています。特に作物加工品は販売価格が高くできるだけでなく、遠方への販売方法としても有効だそうです。
そして重要なのは担い手の確保と人材育成です。国や県、市それぞれに新規就農者を支援するための補助金制度があるのだとか。いくつか制約はあるものの、新規就農者への学校研修施設での学習補助就農前の準備資・経営開始資金機械や施設導入に対する経営発展支援事業など段階的に支援を受けられるそうです。資金面に限らず農地の斡旋や専門家からの知識面のサポートなど就農しやすい環境を整え、スムーズに新規就農が定着するように県・市ともに伴走しながら農業従事者を支援してくれています。
他にも認定農業者の資格を取得した50歳〜60歳のミドル層への就農支援園芸畜産支援事業事業継承への支援なども用意されているようです。更に大館では地域おこし協力隊制度の活用など農業の活性化に様々な角度から力を入れています。

さまざまな農業のかたち

農業を始める、となるとまずはどの農業を目指すか決める必要があります。
自分の思い描く農業で農作物の販売額が収入に直結する農業経営者
(リスクが高い。十分な知識や経験、販売先や資金が必要。)
農業法人や大規模個人農家へ就職しノウハウや経験を培う雇用就農
(リスクは低い。経営者との関係性の問題や収入が賃金制。自分のやりたい農業はできない。)
自分で食べる分を好きなように作る自家消費農業
(リスクはない。区画で借りることができる。ビジネスにはならないため趣味の延長で始める人も多い。)

農業経営者は知識や技量だけではなく高価な農業機械や設備への資金面や天候による収穫量の変動などあらゆる面でハードルが高いものとなっていますが、その分様々な支援制度が用意されています。

これから始める農業、新規就農へのステップ

新規就農へのおおまかな流れです。
①情報・基礎知識を収集
②農作業体験、経験
③農業のリスク、お金、労働を理解
④家族の理解、生活の変化を決断
⑤やりたい農業のビジョン、資金、スケジュール
⑥各種研修や勉強、栽培技術と基礎知識
⑦5年先の営農計画作成「青年等就農計画」
⑧農地借地、機械購入・借上、補助金等の確保

作物選択と販売のポイント

農業を始める上で作物の選択は非常に重要です。労働時間と収入を考慮し水稲が非常に人気だそうですが、次の作物もお勧めだそうです。

永年作物アスパラガス
収穫できるのは2年目からですが株管理を徹底すると10年以上の収穫が可能。
カット野菜などでも需要があり高い収入が期待できます。1日に何度か収穫する必要があり忙しいものの、大館にも夫婦で良質なアスパラガスを栽培している農家があるようです。
市場で人気なネギ
他地域と収穫時期がずれるため需要が高く、春どりから秋冬どりまで多様な作型があるため年間を通した収入が見込めます。皮剥きや選別などの収穫後の作業に時間がかかるため機械化で省力化を図るのが良いそう。地域おこし協力隊にもネギ栽培の研修中の方がいるのだとか!
安定した収益性のきゅうり
安定した需要があり収益性が高く、高度が深く排水のよいところであれば土壌は選ばないものの大雨や風でダメになってしまうこともあるそうです。
施設での長期間収入が得られるトマト
ブランドがついて取引されている野菜で、大館でも昔から人気。客層に応じて品種選定することで販路拡大が期待できます。安定した品質を保つため労働時間が比較的長く、雨よけの施設や虫対策なども必要です。
単価も需要も高い小玉スイカ
スーパーなどで人気が非常に高く、需要の高い時期に短い収穫期間を合わせることが重要です。単価が高く大規模栽培が比較的容易で経営の柱になる品目だそうです。

他にもJAの重点推進品目として関西に出荷の多い山の芋や付加価値をつけることで大きな収入を見込めるとんぶり、需要が高くなってきているスナップエンドウやオクラ、ブロッコリーなどが紹介されていました。

いずれも育てて収穫することだけでなく付加価値をつけることや販路の開拓など売り方が重要になってきます。作物へのこだわりを売りにブランド化、移動販売やネット販売での販路の拡大などです。
干したりパウダーにしたりして作物を加工することで規格外のものも価格を下げることなく売ることができ、更には遠方への販売も容易になります。

これから就農を目指す方へ

今回の講座には実際に就農を目指して動いている方や様々な形で農業に携わる方も参加していて、農業が抱える課題や難しさに皆さん真剣な表情でメモを取りながら聞いていました。

講座の結びに石川さんは皆さんに次のようにお話しされていました。
「今回は農業のいいところはあまりお話ししませんでした。自分に合った農業に巡り合うまでが大変ですし、うまくできるようになるために時間もお金もかかる。それに燃料や肥料の物価高騰や異常気象などにも左右されます。だけど作物の品質を追い求めたりどう売ろうか戦略を立てたりするのは楽しくて、農業って楽しくてやり甲斐のある仕事なんです。だからこそこちらでも栽培のアドバイスや金銭面の支援・研修制度、先輩農家とのマッチングなどに力を入れて伴走する形で頑張っていきたいと思っています。」

拍手と共に、心強い言葉を受けて参加者の皆さんの表情がパッと明るくなったのがとても印象的でした。これから皆さんがどのような農業をしていくのか楽しみです。